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硬質ウレタンに加水分解は起こりにくい?その仕組みと劣化を解説
2022.03.08
硬質ウレタンに加水分解は起こりにくい?その仕組みと劣化を解説
スニーカーをしばらく履かずにしまっておくと、ソールがボロボロになっていたり、はがれてしまっていたりすることがあります。
このようなボロボロになった状態を「加水分解」と呼び、ウレタン素材の劣化によって起こる代表的な事象として取り上げられることは多いです。
硬質ウレタンも同じウレタン素材から作られるため、加水分解の不安や素材の寿命、劣化について気になる方もいらっしゃるでしょう。
そこで今回は、硬質ウレタンにも加水分解が起こる心配があるのか、そして硬質ウレタンの劣化はどのように起こるのかを解説していきます。
加水分解の仕組み
そもそも加水分解とはどのように起こるものなのでしょうか?
辞書で調べてみると、加水分解とは「化合物に水が作用して起こる分解反応」とあります。
(参照:goo辞書)
つまり、加水分解とは素材に雨や湿気で水分が加わると化学反応が起き、それまで塊だったものが崩れてしまうことです。
ウレタン素材が加水分解されると、先にご紹介したスニーカーのようにボロボロ崩れる状態や触るとベタベタした状態に変化します。
加水分解が起こる仕組みは、以下のイラストで見るとわかりやすいでしょう。
ある分子の例「AB」に水(H2O)が加わって化学反応を起こすと、「A-H」と「B-O-H」が生成されます。
元は同一素材であったAとBが、それぞれ別々になることがわかります。
(参照:Study-Z「加水分解酵素」にはどんなものがある?現役講師が5分でザックリ解説します!)
以上のような加水分解は、特定の素材が水と化学反応を起こす現象です。水に強い素材では加水分解は起こりにくくなります。
そのため、同じウレタン素材でも水に強い特徴を持つ「硬質ウレタン」に加水分解は起こりにくいのです。
次の章で詳しく見てみましょう。
硬質ウレタンに加水分解は起こりにくい
工学・理学の博士である秋葉光雄さんの研究によると、ポリウレタンは何年にもわたって室温、水中で使用する限り、明確な物性の変化は見られないとされています。
さらに、硬度が増すと疎水性(水と混ざりにくい性質)により加水分解的に素材は安定するそうです。
(参照:「ポリウレタンの劣化と安定化」)
ただし、硬質ウレタンでも「エステル系」と呼ばれるものは加水分解を起こす恐れがあります。
別の記事でもご紹介しましたが、硬質ウレタンを作る際の原料に「ポリオール」が用いられます。そのポリオールは分子結合の違いによって「エステル系」と「エーテル系」の2つに分けられます。
こちらの記事で、硬質ウレタンの特性と併せて作り方なども解説しているので読んでみてください。
【簡単解説】硬質ウレタンの特性とは?|メリットとデメリット
エステル系とエーテル系は、特性が違うため目的によって使い分けられ、主な違いは以下になります。
エステル系特徴 | エーテル系特徴 |
・機械的強度が高い ・耐摩耗性・耐熱老化性・耐油性がある ・加水分解する |
・機械的強度や耐摩耗性はエステル系よりやや低い ・加水分解を起こさない |
「エステル」は、水に弱く加水分解を起こしやすい化合物の一種であり、エステル系のウレタン素材は加水分解を起こします。
エステル系が使われるものには、電化製品や土木建築用、スポーツ用品、そしてエーテル系と同様に自動車部品にも使われます。
これらの情報からエーテル系の硬質ウレタンには、加水分解の心配はあまりないことが分かります。
硬質ウレタンに経年劣化は起こる
経年劣化とは、品質が時間とともに低下することです。
雨や湿気、温度変化、日照などの自然現象のほかに、継続的な使用による摩耗や汚れも経年劣化に含まれます。
生成された時から自然に劣化が進むもので、硬質ウレタンに限らずどのような素材も劣化は避けることができません。
生成されたポリウレタンは硬質も含め、さまざまな環境要因にさらされ物理的・化学的作用を複合的に受け劣化していきます。
硬質ウレタンの劣化が起こる環境の要因を挙げると以下の通りです。
・光
・熱
・油
・応力(外から力を受けた時に内部に発生する抵抗力のこと)
・微生物 など
特にポリウレタンは光に弱いと言われていますが、これらの劣化因子に対して酸化防止剤や光安定剤が開発されるなど、技術の進歩により対策が可能なものもあります。
劣化するスピードに関して、劣化要因が互いに影響を及ぼしあって劣化を加速させることもあるため、使用環境によって違うとしかお伝えできないのです。一般的にウレタン素材の寿命を推定することは、難しいとされています。
しかし、住宅の断熱や冷凍冷蔵倉庫などに使用されている硬質ウレタンで、使用環境が良く劣化スピードが遅い場合、既に40年を超えてまだ使用されている例もあるそうです。
(参照:日本ウレタン工業協会「硬質ポリウレタンフォームの特徴」)
また、硬質ウレタンの熱伝導率の経時変化について、以下のデータをご覧ください。
住宅用ウレタンの断熱材で経時変化を測定したものですが、100日前後まで熱伝導率に多少変化はあるものの、ある程度変化した後の数値は安定するようです。
(参照:日本ウレタン工業協会「硬質ポリウレタンフォームの特徴」)
まとめ
硬質ウレタンの加水分解と劣化について解説してきました。
今回の記事では、ウレタンの加水分解はエステル系素材に起き、エーテル系の硬質ウレタンに加水分解の心配はあまりないことがお分かりいただけたかと思います。
経年劣化はどのような素材にも当てはまることですが、硬質ウレタンにも起こる事象です。
しかし、温度変化が激しい場所や直射日光が当たるような場所で使用しない限り、劣化するスピードは早くないと考えてよいでしょう。
これまで硬質ウレタンを使ったことがない開発担当者の方でも、ぜひ硬質ウレタンの使用を検討してみてください。
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